家は武器

ADHD親子の、片付けられる家。

感覚にやさしい暮らしノート Vol.3 意思を持ったリラックスと、空間がくれる静かな背中押し

“だらける”と“くつろぐ”は、ちがう

疲れているとき、 ソファに沈み込むように過ごす時間がある。

けれど、そうやって過ごしたはずの時間のあとで、 なぜか気持ちが落ち着かなかったり、 自分を責めたくなってしまったりすることがある。

本当に“休めた”のかな? 心とからだの声を聞けたのかな?

そんなふうに、後から自分に問い直すような時間—— 私には、何度もありました。

 

そんなとき、フィンランドで訪れたアアルト邸の空間が、静かに思い出されます。

そこにあったのは、 やわらかい布や木の質感に包まれた、やさしい居心地と、 どこか背筋をそっと伸ばしてくれるような、凛とした静けさ。

「くつろぐ」と「整っている」が、自然と両立している。

そんな空間が、この世界にはあるのだと、気づかせてくれました。

 

“整った空間”がやさしく背中を押してくれる

アアルト邸を歩いていると、 どの部屋にも「目的」がそっと置かれているように感じました。

リビングの窓辺に置かれた緑と、横に並んだ写真集。
椅子に座り、音楽を聴き、庭を眺め、そこからインスピレーションを得る時間。

ダイニングでは、必要なものが無理なく手に届き、 使い終わったあとには、自然と片付けたくなるような合理的な工夫がありました。

ダイニング側、キッチン側、どちらからも取り出せるようになっています↑↓

ダイニングテーブルのそばに、便利な収納がたっぷり。

この棚の後ろにエクステンションテーブルの置き場が隠れています↓

脚立の置き場まで確保されています。↓

寝室は、明かりと色づかいまで含めて、 「深く眠る」ということのために整えられているように感じました。

ファミリーリビングのテーマはおそらく「団らん」…ベージュ×赤いファブリックが暖かさを演出。↓

各寝室のデスクは、静かに自分と向き合えるような窓辺にあり、 オフィスの自席は、道具や参考書がすぐ手に取れるよう並べられ、 作業がすっと始められるようになっていました。

内省や感情・思考の整理が捗りそう…

それぞれの空間が、 「したいこと」に自然と向かっていけるように、 そっと背中を押してくれるようなつくりになっていたのです。

自分から動こうとしなくても、 「この空間にいると、これがしたくなる」—— そんなふうに、暮らしの中の流れが自然に立ち上がる。

これこそが、“整える”ということのやさしさなのかもしれません。

 

やさしさの芯にあるのは、“少しの緊張感”

アアルトの空間は、やわらかいだけではありませんでした。 木のぬくもりや、カーテンのやさしさと並んで、 整然と並んだ道具や、白と黒のコントラストが、そこにはありました。

特にオフィスの室内は、白を基調としたモノトーンで構成され、 視覚的なノイズが取り除かれていて、自然と集中へと気持ちが向かうようなデザインでした。

家具や造作のラインに、まっすぐな“直線”が際立っていたことが印象的で、 その整った線が、空間全体に凛とした空気感をもたらしていました。

それは、どこか「少しの緊張感」が、空間にそっと漂っているような印象でした。

モノトーン×ベージュに自然の緑。見事に統一されています。

印象的な直線使い。

決してピリピリしているわけではなく、 でも、すこし背筋が伸びるような、凛とした空気。

この「少しの緊張感」こそが、 空間のやさしさを内側から支えているのだと思います。

 

全体がぼやけず、空間の目的が自然に伝わることで、 安心して“その場に身を置ける”ようになる。 そこにいる自分を、肯定できるようになる。

やさしさとは、やわらかさだけではなく、 ほんの少しの輪郭があることで、はじめて安心になる—— そんなことを、あの空間が教えてくれたように思います。

 

意思のあるリラックスとは、自分の感覚を信じて任せること

「だらける」と「くつろぐ」は、 見た目には、どちらもゆるんでいるように見えるかもしれません。

けれど、自分の中で何が起きているかに目を向けてみると、 そのふたつの違いは、とても大きいものだと感じます。

“意思あるリラックス”とは、 「今、自分はこう過ごしたい」と、 しっかり気づけるような状態のこと。

そしてその気づきを、 信じて、任せてみること。

そんな静かな選択の積み重ねが、 私にとっての「感覚にやさしい暮らし」につながっている気がします。

 

アアルトの空間は、 暮らしの中の活動や感性、内面の動きまでを自然に引き出し、 そっと支えてくれるような設計で満ちていました。

すべての部屋や道具には、 そこにあることの“理由”があり、 その“合理性”が、やさしさの芯として機能していたのだと思います。

整えることは、無理することではなくて、 人の営みをやさしく守ってくれる基盤を作ること。

私も、自分の暮らしの中に、 そんな“目的のある余白”を、ひとつずつ増やしていけたらと思っています。

 

【おまけ】やっぱりロッカーは必要よね…

玄関付近にはコートやかばんの収納スペースが十分に取られていました。

これはアアルト邸に限らず、フィンランドではどのカフェ・レストランにも、そして図書館にもありました。

メインの場が散らからず、その場の目的をブレさせないための大切な工夫だと思います。

この日は日本人のお客さんがいっぱいでした。

我が家でも。

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